戦争を知る世代が減りつつある中、世界中で問われる課題です
| 2020年09月05日 23:00 | 吉村正臣 |
Gilles Rapapor ジル・ラパポー(フランス)
Grand-père
祖父の遺言
フランス語 翻訳付
出版社:circonflexe
1965年パリ生まれの絵本作家・イラストレーター。Albin Michel、Seuilなど大手出版社での出版、新聞・雑誌、企業向けにイラスト作品を提供。絵本をはじめとする出版物では、戦争やショアー(ホロコースト)など重いテーマを描いています。
20世紀初頭、ポーランドからフランスへ、ユダヤ系移民としてやって来た若き日の祖父。妻・ふたりの息子とともに、貧しいながらも夢を持ち、仕立屋としてパリで暮らしていました。がヨーロッパを第二次世界大戦の闇が襲い、祖父の人生を一変させます。
出征先での逮捕、人間を人間として扱わない強制収容所での体験。次々と仲間が死んでいく中で、寒さと飢え、暴力、労働に耐えながら「生き抜く」と決意し、生還した祖父の姿を孫である作者が描き、9歳〜12歳向けに出版されました。
裏表紙に書かれた「自分たちが知らない過去の記憶を ただひとりの人間の記憶に止まらない 何百万人もの人びとに共通する記憶を どのようにして継承していくのか…」は、20世紀の戦争を知る世代が減りつつある中、世界中で問われる課題です。
太い筆に黒いインクで描かれ、そこにブルーで着色されています。紙の白地が十分残り、デッサン画に近いモノです。また、文字のページは、筆の黒の枠に、黒を薄めたグレーで地が描かれ、そこに白抜きの文字が入ります。太筆のデッサンで、作者の意図が飾られることなく直接訴えてきます。兵隊の暴力、ナチに捕らえられた囚人たち、倒れる男たち、黒い筆描きだからこそ厳しさが表現されています。
≪翻訳の一部≫ 翻訳:泉 りき
殴られる。髪を短く刈られる。番号の入れ墨をされる。なぜ自分たちは、家畜運搬車で運ばれたのか、そのとき祖父はその答えがわかった。牛が角を切られ、血が流れたままいるように、自分たちは「人間」ではなく、家畜として扱われているのだ、と。
わらが敷かれただけの場所に、労働と暴力でへとへとになったおびただしい数のからだに囲まれて、祖父はからだを横たえた。夜空の流れ星を見て、祖父は願いをかけた。
何としても、生き抜くのだ。せめて、外で凍死してしまった人びとよりも長く。だけど使い古されたぼろぎれのようにはならず。
そこにいた46690番の入れ墨の人は、今はもう灰になってしまった。
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