困難な家庭における、友情の大切さを描いた、工夫ある一冊
| 2024年07月19日 21:30 | 吉村正臣 |
Maeva Rubli マエヴァ・ルブリ (スイス)
Calme et Tempête
静けさと嵐と
フランス語:翻訳付
出版社:La Joie de Lire
マエヴァ・ルブリは1996年スイス、ドレモン生まれのイラストレーター。ルツェルン応用科学芸術大学でフィクション・イラストレーションを学び、現在はバーゼルでイラストレーター、アート・メディエーターとして独立。本作 ” Calme et Tempête “で出版社La Joie de lireよりデビュー。2023年にはブラティスラヴァで大賞を、その他多数受賞。
好奇心と情熱をもって、絵本、コミック、ビジュアル・エッセイ、さまざまな用途のイラストレーションを制作しています。『難しいテーマをとても繊細に扱っている。』と評されています。
物語は、二人の少年が遊び場で出会います。それは、多くの子供たちの友情の始まりとなるありふれた光景。しかし、どちらも複雑な家庭の事情を抱えています。それぞれに“躁うつ病”があるようです。
一人目の子は、いつもは愉快で気まぐれな父親ですが、突然、気持ちが沈み、嵐が来たようになります。一方、2人目の子は、やさしい母親の笑顔が突然消えてしまいます。
二人は、悩みや苦しみを小さな秘密の箱に閉じ込め、秘密を交換し、箱を空にしていく友情を描きます。
この本には、トリックがあります。
一人目の子のストーリーは、表紙からスタート。二人目の子のストーリーは裏表紙から。(こちらが表紙として工夫されています) 真ん中ページで二人が出会い、交流が始まります。また、二人の家庭の描き方も、大きく変わっています。
これは『二丁製本』と呼ばれ、2つの異なる書籍または文書を、逆方向に向かい合わせにして1冊に製本する方法。関連性のある2つのコンテンツを一冊にまとめたい場合に使用されます。
楽しさが一般的な児童書の世界に、困難な家庭問題を取り上げた、珍しい作品です。
≪翻訳の一部≫ 翻訳:泉 りき
父さんとボクは、うまくいっていた。
父は、自分を俳優だと言う。
でも実際は、ピザの配達員か地元のカフェのウェイターだった。
ボクは父さんを大型船の船長だと思うことにした。
ボクたちの船は、灰色の建物の最上階にある小さな部屋だった。
海が穏やかなとき、ボクも父さんも安心していられた。
濃い霧が嵐の到来を告げていた。
嵐はいやおうなしに船に、そして父さんの心にまで侵入してきた。
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