フランスでヒットした絵本、東日本大震災の“津波”がテーマ。
| 2013年09月14日 10:35 | 吉村正臣 |
Xavier Armange グザヴィエ・アルマンジュ(フランス)
une nuit où je me sentais seule
津波:ひとりじゃないから
フランス語
東日本に起こった災害で、被害を受けられた多くの方々は語り尽くせない恐怖と苦しみを身体の細胞にまで染みこませたことだろう。私も、地震の揺れは今も身体に残っている。繰り返しテレビに映し出されたシーンは日本人の記憶にいつまでもある。そんな私たちに、この絵本は、語りかける力を持つのか。
作者は、震災前に来日し日本を愛している。が、それだけで・・・?
そう、情緒だけの絵本でしかないのではないか・・・と、これを紹介することを迷う。
体験には、はるかにおよばない。リアルなおぞましい画面には打ちさけられる。
しかし、きれいな絵、やさしい少女の物語だろうが、地球の裏側で作られ、異国の子供たちに読まれ、話題になりメディアにも掲載され、多くの人に広がることは素晴らしいことと思う。どんなカタチであれ、残しておかねばならない『事実』がある。それは、今を生きる人間の責務だろうし、本の役割だろう。
この絵本が出たことに感謝したいし、日本の人たちに見て欲しい。
見方が甘いな、間違っているんじゃない・・・そんなことも含めて、まずは受け入れ、『震災の事実』に向き合った小さな絵本が播いた種を、日本にもほんのわずかだが、播いておこうと思う。
黒い背景に、ブルーが美しい。高層ビルが無秩序に林立する東京の夜景が垂直・水平の幾何学デザインで示される。単純化すると、街がこう見えるのか、新たな街の風景画に出会う。その、幾何学が揺れ、一瞬に崩れ去る。きちんと計算されたものが、崩れ、さらに幾何学が、脈絡のない曲線へと変わる。時間の経緯は、ブルーから色が変わって示される。しかし、ブルーの色味が入ったピンク系なので、本全体にトーンのそろった、たいへん上品な絵本となっている。この、幾何学模様、色合い、そして静けさは、日本の美しさだろう。例えば、和服、江戸小紋、ふすま、京から紙・・・私たちの心に潜む美が、この絵本を穏やかに受け入れさせてくれるのだ。災害のリアルな強さを廃して。
絵・文を制作したグザヴィエ・アルマンジュは、フランス西部の都市・ナント生まれ。作家、イラストレーター、写真家であり、編集者。文学を学び、絵本の世界に入るが、次第にイラストレーションを手がけている。
une nuit où je me sentais seule 津波:ひとりじゃないから
(抜粋) 翻訳:イラスト・ユーロ 泉りき
夜が訪れる
誰もいない、たったひとりの夜だった
建物の階段を上っていく
上へ、上へと
最上階の屋上テラスへと
眠りについた街は、やさしく見える
向かいの建物に、夜の星を眺める人がいた
突然、犬の遠吠えと、風が立ちのぼる
暴風雨にあおられる小舟のように
地面は傾き、倒れこむ
街がつぶれ、崩れていく
海は巻き上がり、波打ちだす
・・・
この絵本は、イラスト・ユーロ絵本ショップで販売しています:
http://illust-euro.ocnk.net/product/131