子ども向けの枠におさまらない、恐ろしいストーリー
| 2016年05月23日 09:00 | 吉村正臣 |
Wolf Erlbruch ヴォルフ・エァルブルッフ(ドイツ)
L’Ogresse en Pleurs
人食い女の涙
フランス語 翻訳付
出版社:MILAN
ドイツの絵本作家でイラストレーターです。大学教授として、後進の指導にもあたっています。エッセンのフォルクヴァンク芸術大学でグラフィックデザインを学び、1985年から絵本の分野で活躍するようになります。これまで30冊近い絵本を出版。1999年と2004年ボローニャ・ラガッツィ大賞、2001年と2014年ボローニャ・ラガッツィ特別賞を受賞。2006年には国際アンデルセン賞を受賞するなど国際的にも高く評価されています。
奇妙でおそろしいストーリーです。子どもを狙う人食い女の、驚きの展開とその後がドラマティックに描かれます。人食い女はあちこち探し回りますが、とびきりかわいく、おいしそうな子どもには、なかなか出会えません。フランス語のaimer(愛する)と manger(食べる)が、同じに思えてくるほど、人食い女の存在感、物語の展開と皮肉な結末は、強い印象を残します。
物語を、ますます怖く異常にする、絵ですね。大ベテランだけのことがあり、物語を完全に消化し描いています。主人公の「人食い女」の表情をご覧ください。大きな口、頑丈そうな顎、願望を象徴する眼球の鋭さ、このデフォルメは彼の他の作品より、飛び抜けています。日本画のような平面的な描き方と、立体をつける画法、一部にコラージュを加え独特のミステリアスな世界を作っています。落款(らっかん)が随所におされていていますが、この作家の作品によく見られます。
≪翻訳の一部≫ 翻訳:泉りき
大むかし、とある場所に、とっても意地悪でどう猛な女性がいました。子どもを食べてしまいたい、とずっと思っていました。
その女はこれまでにも、さんざん悪事をはたらいてきました。その中身は凄惨すぎて、ここではご紹介できないほどです。何しろおそろしい女です。ただ、子どもをむしゃむしゃ食べることだけは、したくてもできないでいました。
女は、仕事も家事もしなかったので、時間はたっぷりありました。そこでいちばんおいしそうな子を探すことにしました。食欲ギラギラの目であたりをくまなくうろつき、子どもがいると、そばに近づき、じろじろとながめたのです。
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