ヨーロッパの一流イラストレータ イタリア、フランス、ベルギー、ドイツで活躍中のアーティストを紹介
   
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フランスの大物、パリ国立装飾美術学院教授で、
ボローニャ国際絵本原画展の審査員を務めた
ローラン・コルヴェジエさんが参加!

| 2006年05月20日 16:16 | 吉村正臣 |

学生時代の作品とともに 「TOTEM」とともに

●無邪気さあふれる、やさしい絵

顔は肌色でなくていい、花は赤くなくてもいい、星は、いつもの星印でなくていい。
色がにじんでも、汚れても、はみ出しても、気にしない。
たっぷり絵の具を使って、好きな色で、形のゆがみなど気にせず、一気に描き上げていく。
自由に描いた子どもの絵。


初めて出会って
「子どもの絵か、いや・・・」(Arbres)

パリの本屋さんで、そんな絵本が、私の目に飛び込んできた。 きれいな色、自由なフォルム、描かれるシーンも夢のよう。
が、しかし、子どもの絵ではない。子どもの絵のような偶然を装いながら、したたかな描写力と、下描きの繰り返しが推測される。
描かれた人や動物や植物が、大小主従を問わず同じ注意深さと力で、描かれている。これは、子どもにはできない。
イラストレーターは、「ローラン・コルヴェジエ」(Laurent Corvaisier)。
以後、1年半の間に4,5冊入手した。
昨年のボローニャ国際絵本原画の書店コーナーの棚にも何冊か展示されていて、コンタクトをとることにした。 ただ、日本で言われるイラストレーションの領域からすると、遠くにあるように思われる。彼のイラストレーションは、まさに「絵」の領域ではないか。そんなことがあり、彼から「自宅に来ないか」という誘いをもらいながらも、後回しになっていた。

これはもうファインアートでしょう
(L’A MATEUR)

●コルヴェジエさん、アトリエ訪問

コルヴェジエさんの自宅兼アトリエは、パリの11区、工芸職人のアトリエが多い静かな街区にある。
とてもやさしい人だ。で、やはり、絵の力は推測どおり、パリ国立装飾美術学院卒業、そして若いながらパリ国立装飾美術学院教授である。ボローニャ国際絵本原画展の審査員を務めたこともある。
“子どもの絵のような自由さ”を言うと、「子どもの時からこのような絵を描いていた、今、自分の3人の子どもを見ながら描いている」と子どもたちを紹介してくれた。
“色彩といいフォルムといい、あなたの絵は、モダンな印象派ですね”と話すと、とても喜び、堰を切ったように話し出した。
「僕の生まれは、印象派の誕生の町、ル・アーブル※。印象派の画家から多くを学んだ。その評価は大変光栄である。とくにボナールが好きだ」

後期印象派の作風ではありませんか?
※ル・アーブルは、モネが「印象派」の呼称となった風景画「印象・日の出」の描かれた町。
近くに、モネの住んだジヴェルニーがあり、睡蓮の池は有名である。
また、ルーアンには、ゴシック様式のノートルダム大聖堂があり、モネはこの聖堂を何点も描いている。

●古典から学び、今を描く

印象派以前の古典にまで話が進んだ。彼は「古典を見ても、新鮮なインスピレーションに、多々驚く。僕は、アングルが好きでルーブルによく見に行く。多くを学び参考にしている」
旧友が久しぶりに訪ねてきて、貯めていた話を一気に語り始めたように、猛烈なスピードで饒舌に話す。年少児の描いた絵、スケッチブックを出してくれる。
母の絵、子どもが生まれた時の絵、旅行時のスケッチ。 そして、今制作を進めている「トーテム」を並べてくれた。高さ2m、幅50cm、厚み5cm程の重い板に、木目を生かしながら、人を描いている。
最近、積極的に取り組んでいる「TOTEM」

室内で 屋内で
展覧会で

さまざまな画法を用いながらも、少年の頃から描いている手法は一貫しているようだ。 “イラストレーターと言うより画家ではないか”と問う。「そうだな、僕はどちらでもいいんだ。」
彼はその区切りを特別引いているようではない。

大人っぽい、渋い絵も描ける人です
「午後から、パリの新しい国立図書館近くの、絵本屋さんで、僕のサイン会をするからこないか」という。驚いた。フランスを代表する作家で、しかも国立大学の教授が、街の書店でサイン会とは・・・!

●小さな絵本店で、サイン会

13区のギャラリーが並ぶ新開発地区にある、ほんとに小さな本屋さんだった。
書店内の真ん中にテーブルを置き、コルヴェジエさんが座り、前に立つ子をモデルにして、本の裏表紙に描いていた。
彼の優しい顔、楽しい語りかけに、子どももその親も微笑みが絶えない。
一人ひとりに、「僕を応援しにきてくれた日本人」と紹介してくれる。 根っから子どもや人が好きで、楽しく描くことのために生まれてきたような人である。
イラストユーロ代表の顔を即興で描いてくれた

アンバランスが、おもしろい


顔(彼の子ども)は、きちんとデッサンされた作風なのに、その背景は、子どもの絵のようなデフォルメ。

犬だけがしっかりした作風です。斜め上から見た、犬の頭部は骨格、およびそれに続く脊椎、足など、ほぼ正確な立体感を持っています。が、右の人は、もう正確さはありません。胸あたりの鶏になると、子どもの絵のようになっています。後ろに横たわる人など、模様化されている。

このアンバランスな構成が、単なるイラストレーションから深い作品へ、昇華させている。