和綴じで手作り感、マンガのように描く新作
| 2016年06月03日 10:13 | 吉村正臣 |
Benoît Jacques ブノワ・ジャック (ベルギー)
LA VALLÉE ENCHANTÉE
魔法の谷
フランス語 翻訳付
出版社: Benoît Jacques Books
イラストレーター、作家、漫画家、アーティストと多様な顔をもつブノワ・ジャックは、1958年ベルギー・ブリュッセル生まれ。王立美術アカデミーの講座を受講後、ラ・カンブル視覚芸術高等専門学校に入学。ロンドンに渡り、グラフィック・デザイナー、イラストレーターとして活動を開始します。その後、フランスへ移り住み、1989年自身の出版社Benoît Jacques Booksを設立します。2008年フランスの児童文学・絵本賞Baobabを受賞。2012年には、ワロン・ブリュッセル地域児童文学トリエンナーレグランプリを受賞します。
特殊な紙を用い、和綴じで手作り感のある製本になっています。物語の舞台は、動物や植物が豊かで、静かな谷間。そこに突然、王子と名乗るうさんくさい人物がやってきます。一日中、騒音やゴミをまき散らす王子に、村のメンバーはカンカン。村から追い出そうと画策します。はちゃめちゃなイラスト、木にポテトチップスがなるナンセンスさは、漫画家としても活躍するブノワ・ジャックらしいできばえです。
鋭いペンで、ぐいぐいマンガのように描く作家です。右ページが全面イラストに。架空の谷間の住む木々や草花、奇妙な動物たちが墨インクで描かれ、そこに色彩が施されています。動物のデフォルメがとくにおもしろい。地に深い塗り込みも。筆の跡を残し、テクニシャンなところも見せています。
大胆で乱暴とも見られる絵は、“かわいくきれいに”とされる常識を打ち破ぶり、また本紙はクリーム色、手作りのような製本で既成を感じさせず、すべてにおいて新しい試みで、好感を持ちます。
≪翻訳の一部≫ 翻訳:泉りき
魔法の谷では、ずっと万事がうまくいっていた。
雨の日でさえ、晴れているという始末だった。
ひどく寒い日は、都合よかった。だって、汗をかかないもの。
猛暑がやってくると、みんな大喜びした。寒さのあとは暑いのに限るから。
寒さが暑さに、暑さが寒さに、かわることがうれしくてたまらなかった。
とにかく、万事がうまくいっていた。だれもが口々に言ったものだ。
「ここはいいね。困りごとは何もない。魔法の谷なら、すべてがうまくいく」
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