狂乱のパリの夜が、水彩の流れるようなタッチで描かれます
| 2021年09月10日 09:13 | 吉村正臣 |
Brecht Evens ブレヒト・エヴァンス (ベルギー)
Les Rigoles
パリの夜、愉快な面々
フランス語
出版社:ACTES SUD
1986年生まれ、ベルギー出身のコミック作家、アーティストです。フランドル地方ヘントにあるサン・リュック美術学院の卒業制作作品で、夜の街をさまよう人たちの姿を描いたロマン・グラフィック<Les Noceurs>が出版デビューとなります。作品は2011年の「アングレーム国際漫画祭」で果敢(かかん)賞を受賞。この本はイラスト・ユーロでもご紹介しました。ルイ・ヴィトンの「トラベルブック」シリーズ・パリ編、フランス発のブランド・コテラックとのコラボ製品を手がけるなど、その活躍は、ベルギー、フランスから世界へと広がります。
ご紹介する本は2018年にフランスで出版され、2019年の「アングレーム国際漫画祭」の審査員特別賞を受賞。さらに既製の枠にとらわれないすぐれた作品に送られるトポール賞を受賞しています。「水彩絵の具の名手」「ロマン・グラフィック※の至宝」「一杯飲みに出かけたくなる魅力的な本」など、フランスの各メディアで絶賛されています。
※ロマン・グラフィック(英語ではグラフィック・ノベル)とは、コミック作品の枠を超え、大人を対象にしています。ストーリーも文学的であったり、ときに歴史の事実からインスピレーションが与えられます。今回の作者ブレヒト・エヴァンスをはじめ、ファインアートのアーティストが、ロマン・グラフィックの世界に挑戦するなど、表現の幅が広がる注目のメディアです。2019年のアングレーム国際漫画祭でも、ロマン・グラフィックの作品が最優秀作品賞を受賞するなど、目が離せません。
300ページを超える大作のタイトル”Les Rigoles” は、パリ20区ベルヴィルにあるカフェにちなんでいます。作者のブレヒト・エヴァンスもパリで暮らした時期、足しげく通ったそうです。
主人公・ジョナはパリでの生活に終止符を打ち、ベルリンに行くことに。恋人は一足先に出発し、ジョナの荷物はすっかりダンボール箱に入れられています。パリ最後の夜を楽しもうと、友だちを誘うのですが、仮病や適当な理由で片っ端から断られ、ひとりで過ごすはめに。最後の夜を胸に刻もうと、パリの街をさまよい、夜の王の異名を持つロドルフ、ポールダンスの踊り手・ヴィクトリアと出会います。
ふたりも家族の問題や気分の落ち込みに悩んでいます。ひととき悩みを忘れようと、姿を変え楽しみます。3人に共通するのは、自分の将来がまったく見えないこと。そして夜が終わるとき、それぞれが自分を解き放つかのように行動を起こします。ジョナは行方不明の友人の足跡をたどり、危険な目に遭う。ヴィクトリアは催眠術を使うダンサーについていく。
そしてロドルフは、裸で街路を走り、セーヌ川に飛び込み、溺れそうになったところでヒッピーに救われる…あやうさをかかえた若者たちの姿を描いた作品は、パリの夜だから起こりそうな夢と現実をさまよう物語です。
絵のそれぞれにテキスト(フラン私語)が付いていますが、吹き出しになっていないので、イラストとして見てしまいます。
あるところはカラフルに、ある部分はモノトーンで、水彩絵の具でスピードよく描いています。水彩の特徴もよく出ていて、肉筆の良さが伝わります。デッサン力もあり、きれいな筆裁き。
大胆な構成とディテールの細やかさもバランスよく、上手だなと思いました。描かれている内容が動きのある人々の交流シーンだから、よけい絵も軽やかで楽しいのかも知れません。
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