デジタル・グラフィックで動物の世界を描く
| 2021年11月08日 09:13 | 吉村正臣 |
Stéphane Kiehl ステファン・キール(フランス)
ジャングル-
追われゆく動物たち
フランス語 翻訳付 出版社:De La Martinière Jeunesse
フランス・ストラスブール出身(1975年生まれ)。現在はパリ在住。ナンシーの美術学院で学びました。新聞や雑誌に作品を提供するほか、すでに数十冊の絵本を出版しています。絵本La vie en designは、 2015年モントルイユ絵本市の芸術ドキュメンタリー部門で最優秀賞を獲得しました。2018年からはイラストとともにテキストも創作しています。
アマゾン熱帯雨林の森林破壊が、地球規模の危機となり、自然環境の保護が今世紀最大の問題となっています。そんな中、人間とジャングルの関係を問い直す絵本が出版されました。出版直後にフランスの全国紙リベラシオンが、この絵本を大きく取り上げたこともあり、注目の一冊です。
豊かな土地を求め、誰も住まない未開の密林で暮らすことを選んだ一家。手探りでの生活でしたが、この森林の主役は動物たちであり、その一角に人間が住み着いたのです。そのうちに他の人たちもやって来て住むようになると開発がはじまり、人間社会が生まれます。
ヒトと仲がよかったはずのサルも背を向け、森林の王と恐れたトラも姿を消し、動物は森から追われたのです。
あとからやって来た者たちが、開発の先頭に立ち、動植物への敬意や共存を忘れ、人間第一に。ページをめくるごとに、緑でおおわれた密林が少しずつ姿を消し、白い地面がむきだしになっていきます。森の奥深くで息をひそめるように生きるトラたちの姿が悲痛です。
深い森のグリーン、暗闇の黒、月光に映えるブルーが、美しい作品です。特に、闇にうごめく動物たちの世界。そして、昼間の木々や草原の色彩はみごとです。手書きでしっかり構成し、おおよそのデッサン、下書きをしているのでしょう。その後グラフィックソフトで仕上げていく。色彩は、制作時にPC上で作っていくという工程か。手書きでしか描けない部分や、PCで得意とする部分がうまくミックスされていて素晴らしい絵となっています。森の中のダイナミックな自然と色彩をぜひご覧ください。
<翻訳の一部〉翻訳:泉 りき
密林に着いた日のことは、今もしっかり覚えている。最初は一筋縄ではいかなかった。背中に重い荷物を背負い、むきだしの腕や脚は傷だらけ。果てしなく広がる未開の地で、途方に暮れていた。
父親とぼくと姉と妹-ぼくたち家族は、温暖で豊かな土地を求め、北部の村をあとにした。村での生活にいい思い出はない。母親はずいぶん前に出ていったし、父親には仕事もお金も度量もなかった。ぼくたちはもう一度やり直そうとしていた。
一か月以上密林をさまよい、ようやく探検家さえ足を踏み入れない場所にたどり着いた。川のほとりに荷物をおろすと、木を切って家を建て、食糧を探した。他ではとうていお目にかかれないほど、くだものが豊富にあり、手を伸ばすだけで十分だった。
木がおおい繁るだけのこの場所で生きることになった。
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